営業はどこまで仕組み化できる?仕組み化の最適なバランスは?

営業現場では、「成果を安定化させたい」という思いから、あらゆる業務を仕組み化しようとする動きが強まっています。しかし、すべてをマニュアル化すればうまくいくかといえば、必ずしもそうとは限りません。逆に、個々の営業にすべてを任せる“職人型”では、属人化が進み、再現性や組織の成長が停滞してしまうリスクもあります。
では、営業における「仕組み化すべき業務」と「裁量に任せるべき業務」は、どのようにバランスを取るべきなのでしょうか。
本コラムでは、営業活動を効率化しながらも成果を最大化するために、どの業務を“型”にし、どこに“自由度”を残すべきか、具体的な判断基準と実践ステップを紹介します。
仕組み化すべき営業業務とは?
仕組み化とは、営業活動を標準化・体系化することです。属人化を防ぎ、組織としての再現性を高めるためには、どこまでを誰が・どのように行うかを明文化し、一定の型に落とし込む必要があります。当社では、以下の3つの業務は仕組み化をするべきだと考えています。
- テレマーケティング・メール対応などの“入口業務”
- 営業情報の記録・管理
- 営業マネジメントにおける数値管理
① テレマーケティング・メール対応などの“入口業務”
初期アプローチにあたるテレマーケティング・メール対応などの“入口業務”は最も仕組み化すべき領域です。スクリプトやテンプレートを整備することで、未経験者でも一定水準の接触が可能になりますし、A/Bテストをすることで効果の高いアプローチ方法をどんどん発見、体系化できます。
② 営業情報の記録・管理
顧客管理(CRMの入力ルール)や営業日報、週次の報告フォーマットなどは、全員が同じルールで記録することで、チーム内での情報共有がスムーズになります。過去の商談履歴や対応状況が正確に残ることは、営業の質を左右する土台となります。
③ 営業マネジメントにおける数値管理
受注率や案件数、活動量などの指標は、定期的なモニタリングと振り返りが求められます。部署ごとにオリジナルのKPIを設定してしまうと、それぞれのパフォーマンスの比較ができません。そして、仕組みとして自動レポート化やダッシュボードの整備を行えば、マネージャーの負担軽減にも繋がります。
これらの業務は、「誰がやっても一定の成果が出る」「再現性が高い」という共通点を持っています。逆に、属人的に行ってしまうと、「組織全体の成長を止めてしまうリスクがある」というマイナスの共通点があります。そのため、積極的に仕組み化すべき領域で、一般的にも仕組み化のイメージが付きやすいかと思います。
+α|顧客の課題を深掘りするヒアリング
これらに加えて、当社では以下のような項目も仕組み化すべきと考えています。
その一つが、顧客の課題を深掘りするヒアリングです。一般的に、どのようにヒアリングしていくかは先方担当者の人柄、営業スタッフのキャラクターによってケースバイケースで変わってしまう印象があると思います。しかし、これをケースバイケースで留めてしまうと営業スタッフのセンスによって差が出てしまいます。
そのため、フリートークでは、どの順番でどのように何を聞いていくのか、というところを仕組み化し、可能な限り営業スタッフによるパフォーマンスの差が出ないようにします。
次に、提案の設計・構成も仕組み化が有効です。顧客の業界、競合状況、組織構造、導入プロセスの違いなどを踏まえると、同じ商品でも提案の打ち出し方は変わるかと思います。しかし、この違いを認めるとまたもやセンスによるバラつきが発生します。そのため、「この提案書の流れが最善である」というテンプレートを作成し、それに沿って営業スタッフが提案を準備することが重要です。
ただし、このヒアリングと提案の設計・構成は営業成績が上向いてきたスタッフには自由を認めてよいです。守破離とあるように、型を守って結果が出るようになれば自由にやらせ、そこで生まれた新しいノウハウを型にするというループが回ると営業ノウハウが永遠に進化します。
仕組み化するべきではない営業業務は?
営業活動のすべてをマニュアル通りに進めることはできません。なぜなら、営業の現場では「相手が誰か」「状況がどうか」によって、対応の最適解が毎回変わるからです。よって、ある種の業務は、現場の判断力・感性に委ねる「裁量」が必要です。
その最たる例がクロージングです。商談の終盤では、顧客の温度感を読み取りつつ、いつ・どのように意思決定を促すかを調整する必要があります。押しすぎても引きすぎても失注に繋がるため、現場感覚が問われます。また、感情で訴えるほうが相手の気持ちを揺さぶれる営業もいれば、論理的な説明で納得を引き出すタイプもいます。受注を獲得する最終局面では、こうした個性がどうしても必要になります。
よって、仕組み化せず、それぞれの営業スタッフが最善と思う方法で商談相手を契約に繋げるようにしたほうが良いのです。
仕組み化と裁量、どう線引きすればいい?
仕組み化と裁量のバランスを取ることは、営業マネジメントにおける重要なテーマです。一方に偏りすぎると、組織のパフォーマンスに歪みが生じます。ここではバランスを取る際の3つの視点を紹介します。
- 再現性があるか?
- 変数が多いか?
- 成果への影響度は?

大村 康雄 | 株式会社エッジコネクション 代表取締役社長
慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1600社以上を支援し、継続顧客割合は75%を超える。2024年7月には「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。